やせたつもりが大間違い
先日、私の所に二人の中年のサラリーマンがお見えになりました。
そのうち、お一人はスルスルこうで健康的に99キロから20キロやせた方です。
ひとかたもうお一方はその方の友人で、主食と甘い物を食べないダイエットで15キロやせたそうです。
年齢も落とした体重も似たりよったりのお二人ですが、やせ方は対照的でした。
スルスルこうそで減量した方は、お腹と背中の賢肉が取れ、ウエストは20センチ細くなっていました。
もう一人の方は、肩や胸の肉が落ち15キロやせても、ウエストは2センチしか細くならなかったそうです。
顔ももちろんやつれ、「やせたら、しわが増えちゃって」と、こぼしていらっしゃいました。
「これは、おやせになったのではなく、おやつれになったんですよ」
と、私は、体に必要なブドウ糖を作るために、体タンパク組織が失われることをお話すると、
その方も思い当たるふしがあったのか、うなずかれて、これからはご飯を必ず食べるように気を付けるとおっしゃっていました。
痩せるとやつれるでは何が違う?
ここで、「やせる」と「やつれる」との違いをはっきりさせておきましょう。
やせるとは、皮下脂肪がなくなること。
やつれるとは体タンパク組織がなくなること。
皮下脂肪と肉(体タンパク組織)を同じものと勘違いしている人がいます。
皮下脂肪の事を贅肉とか、余分なお肉とも言いますから、多少の混同は止むをえないと思いますが、骨と皮の間にあるものは全部皮下脂肪で、つまりは余分で要らないお肉、などという過激な発想は困ります。
牛肉でも豚肉でも、現実に自の前にあるお肉を見てください。
赤身は赤身、脂肪は脂肪、全然違う組織ですね。
人間の体は骨と皮だけでできている訳ではありません。
血管もあれば内臓もあります。
それらをつなぐ神経、動かす筋肉もあります。
血管や神経、内臓などが、骨と皮の間で宙ぶらりんになっていたら不安定この上なし。
それらを保護し、固定させる組織が必要です。
拒食症の人は「骨と皮以外のものは全部いらない」などと言いますが、そうはいかない訳がお分かりですね。
痩せたんじゃなく内臓が一キロもひからびた!
さて、私は先ほど、食べないでやせようとすると、体タンパク組織がなくなると言いましたが、なくなると言っても消えてしまうわけではありません。
細胞の一つ一つが、小さく縮んでひからびてしまうのです。
こういう時に恐いのは、内臓までひからびて小さくなってしまうこと。
たとえば人間の肝臓は普通の人の場合約一・五キロありますが、拒食症の人では400グラムから500グラムしかありません。
この状態では充分な働きができないのも当然でしょう。
もちろん、胃や腎臓、子宮なども同じ運命をたどります。
内臓が干からびると流産の可能性まで!?
ある産婦人科の医師は、「最近の若い女性は、子宮が小さくて、不妊・流産になるケースが、ひじように多い」
と、こぼしていらっしゃいましたが、ご自分の経験からうなずかれる方も多いと思います。
こうして縮んでしまった肝臓、子宮などは、ご飯に代わるエネルギー源として、生命維持のための犠牲になってしまったのです。
実際、体の表に現われるよりも、内部の方が被害は大きいのです。
身体の状態と内臓の状態はイコールである
胸やお尻がベチャンコになってしまった人は、それ以上に内臓はペチャンコになっています。
逆に皮下脂肪が付いている人は、それ以上に内臓にも脂肪がこびりついています。
肌がガサガサの人は内臓もガサガサ、しみのある人は、内臓にはもっと多くのしみがあります。
正しい食事のとり方を実行すると、皮下脂肪は取れますが、やつれていた組織は復元します。
健康になったことを太ったと勘違いしない!
ある時、40代半ばの主婦の人が、取り乱して私の所にやってきました。
「この食事はやせる食事だと聞いていましたが、私は太ってしまいました。お尻に肉が付いてきたんです」
この方はもともとやせている人で、低血圧で疲れやすい体質を変えることを目的にしていました。
問題のお尻は、少しも丸みのない扇平な形でギスギスしていました。それが丸みが出てきたので、「これは大変、太り出したのでは?」と不安にかられたのでしょう。
「お尻がまっ平というのは、内臓が不健康な証拠です。
皮下脂肪が付きすぎたお尻もいけませんが、必要な組織が付いていないお尻もまた問題です。
お尻に組織が付いてきたというのは、内臓が元気になってきたということです。
太ったのではない証拠に、ウエストや背中には何も付いでいないでしょう」
とお話すると安心していらっしゃいました。
必要な体タンパク組織と、落とすべき皮下脂肪とを見分けることも大切なことです。
太りすぎの人の場合、意外なことに、皮下脂肪は必要以上にたくさん付いているのに、必要な組織はことのほか貧弱というケースがひじように多いのです。
特に内臓の働きが鈍い人は、カロリーを使う力も弱いわけですから、必要な組織を作ることもできず、いたずらにカロリーを余らしてしまうだけ。
その結果、余ったカロリーは皮下脂肪となって体内に蓄積されていきます。